一輪のコスモス
あなたに贈りたい。
そう思って花屋で買ったのは、1輪のコスモスだった。
小ぶりでありながらも綺麗な色をしたこの花はあなたにそっくりだと思ったから。
家に帰り、あなたに渡した。
「どうしたの?」
あなたは不思議そうに私を見る。
ただ綺麗だったからと押し付けるようにあなたの視線を避けた。小っ恥ずかしかった。
背を向けた自分を見て、あなたは、ふふっと笑いをこぼした。
「どうして赤いコスモスだったの?」
「....似てたから。」
そう。と言いながら、更にあなたは笑いをこぼした。
ソファに少し小さくなって座る自分の横にあなたは座って、顔の横にコスモスを近づけて、似てる?と尋ねる。
恥ずかしくて、無視してスマホを見る自分を横に、あなたは話し出した。
「コスモスの花言葉はね、調和や純粋なのよ。」
花言葉や宝石言葉が好きなあなたは嬉しそうに話を進める。
「それで、赤いコスモスは、愛情なの。」
「知ってる。」
小さい頃からよく聞かされた花言葉の知識には自信があった。自分は素っ気なく返す。
「だから花束じゃなくて1輪だけにした。」
その言葉を聞いて、あなたは少し目を見開いた。そして、目尻を和らげて、ありがとう。と呟いた。
いつも素っ気なく、感謝を口にできない自分だが、あなたに感謝を伝えたかった。
非行に走って家族と開いた溝にいつも橋をかけてくれる、母であるあなたに。
何があっても自分に真正面向かって話をしてくれる、母であるあなたに。
物静かな暖かい優しさを注いで育ててくれる、母であるあなたに。
抱えきれないほどの愛を注いで育ててくれる、母であるあなたに。
こんな自分なのに、母であるあなただけが味方でい続けてくれる。その、感謝を花に込めた。
花が好きな母なら、きっと気づいてくれると思ったから。
10/10/2025, 5:45:11 PM