僕の母はいつも言っていました。
あなたのお父さんは薄情な人なのよ。こんな手紙一枚きりしか連絡を寄越さないんだから。どこで何をやってるかちっともわからないわ、と。
父は僕が小さい頃に家を出てしまい、それから一度も会ったことがありません。世界中を回る仕事をしているそうですが、詳しいことはわからないんです。
母は父の文句ばかり言っていましたけれど、最期まで父から届いた手紙を大事にとっていました。その手紙を読み返している時の母は、とても安らかな瞳をしていたように思います。
ああ、すみません。話が長くなってしまいましたね。今日は母の墓に花を手向けに来ていただきありがとうございました。母も昔の友人が会いに来てくれたと知ったら、喜んでくれると思います。
僕がそうお礼を言うと、母の墓前に佇む母の友人である彼は、深く頭を下げて涙をこぼした。
【安らかな瞳】
3/14/2023, 1:11:15 PM