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令和7年5月1日

お題「風と」

早苗揺れ 風で風邪との 知らせあり 

           作 皐月 さなえ  



「まだ見ぬ、波濤」   作 碧海 曽良 

 タモリさんが「また来週〜」と言った、そう今日は週末金曜日、タモリさんまの「笑っていいとも」は金曜日いつも録画して深夜にビール片手に観ていたが、今日はリアタイで観た。

まだ、お昼過ぎだ寝込んでいた数日分の留守電を整理今夜、おこまに電話してみようかと考えていたところに、インターホンが鳴った、こんな時間に約束もなくインターホンを鳴らす奴なんてろくなもんじゃないと無視を決め込もうとしていたところに、「ねえ、おるー?」と、おこまの声が響いて、慌ててドアを開けた「なによ、ビックリした」と、おこまに言うと「こっちこそ、なんべん電話してもでんし死んでのかって心配したよ」おこまは海内からの電話で粗方のことを知り、海内の伝言を持ってお節介やきに来たのだ。「ちょっと、面倒くさいかなぁ」と内心呟きながら、おこまを通す前におこまは入っていた。

「コーヒーでええ?」
「有り難う、そんなことより体もうええん?」
「うん、もう快復したで」
「地獄よりの帰還お疲れでした、ちょっと痩せたんちゃう?食べれてるん」
「食べてる食べてる、お昼にカツ丼食べたで」
「なら、良かった、、海内から電話有って売り場行ったら無断欠勤で知らんかって逆に聞かれるし心配したで」
「有り難う、心配かけてごめんや〜」
「元気なら良かったわ、海内もだいぶ心配してたよ」
「雨ん中、追いかけても来んとかいな笑えるやちゃなぁ、相変わらず」
「そんなけ毒吐けたら大丈夫やな」おこまは笑った。
「今さっき、卒業写真を押し入れの奥の異次元空間にある五番街に閉じ込めて鍵を掛けました」
「燃やしては捨てれやんのかいな」
「今は、まだ、、、」
之子は俯いて笑った。
「嫌いには、絶対なりたくないんや」
「嫌いになれたら楽やのになあ」おこまが呟いた。おこまの聞いた話では、海内は随分と仕事で悩んでいたらしい、元々群れるのが苦手なスプリンターグランドを一人走っている姿が印象的な海内だった、それが先輩同僚締め切り前には編集室に泊まり込みで、その頃流行り出した写真週刊誌の編集部は、地獄の体育会ノリ、軽薄な学生生活の延長ではない。そんな野次馬達の好奇心を満たすプロが写真週刊誌記者だ、軽薄で格好だけの正義感なんぞ捻り潰されるそんな世界だ。それでも何故その世界に身を投じるのか?勿論入社1年目の海内には解らず、それを聞き解しまた仕事に向かわせるそんな堪忍袋の紐は年上の女の方が1枚も2枚も上手であった。海内は気づけば、元彼女であり先輩でもあった女性記者と縒りを戻してしまった。彼女は人妻で子供も居たらしいので、とんだ間男の若い燕よろしくの話だ、それ以上之子は聴く気がせず、おこまのお喋りを遮った。

「もう、ええわ。やめて、それ以上、嫌いになりたくないねん、アイツのこと」

「あ、ごめんや分かった」

流石に、お喋りなお節介おこまも黙り、いきなり「なあ、体もうええんやろ?映画でも見に行かへん」「ええ、職場の人に会ったらマズイし、明日から仕事やし」「ええやん、見つからへんて、銀座くらいまで行きゃあ、東京はそんなに狭ないで、ドラマみたいに(笑)」「なに観るん」とりあえず行ってみようやという話になって、之子は新しい革のジャケットにツイードスカートに着替えた。ラッシュ時間にはまだ早い午後3時少しヒヤヒヤしながら銀座へ出た。

観る映画を探して之子とおこまはぶらぶらと歩いた。途中、学生と思しきナンパに二組ほど会い、之子は忘れられない映画に出逢う「男女間に友情は成立するか?」「彼が彼女を見つけたのは?」チャーミングでウィットに富んだ会話劇「恋人たちの予感」1989年の映画。
之子はメグ・ライアンの虜になった。

ラブストーリーが大好きな之子に対してアクション映画派の、おこまだがこの日は之子に合わせてくれた。「失恋した後でラブストーリー観れるその精神的強さ尊敬するわ」とおこまに言われても臆することなく、メグ・ライアンが子供の台詞「家族が見えた〜」に涙する姿に涙する之子であった。

二人は映画の後で、これも来る前におこまが予約を入れていてくれた少し高めのフレンチレストランで夕食をした。それから、クリスマスのイルミネーションの中早めに帰った。

「来月は誕生日やん、クリスマスもどうすんの?」
「今年は、年末まで仕事!走りますやん笑笑」之子は迷いなく答えた。

「おこま、今日は本当に有り難う感謝よ」と之子が手を合わすと「おおっ」と、おこまは胸を張って見せて笑った。

平成元年11月も終わろうとしていた、冷たい風がイルミネーションを揺らしていた。

つづく





5/1/2025, 10:54:15 AM