緋衣草

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きっと明日も(9.30)



 ふなぁあ、とあくびをして窓辺に座る。少し傾いた日差しが気になるけれど、首筋を抜ける爽やかな秋風を思えばなんてことはない。
「速い」
低く鋭い声が飛ぶ。むっとした少年の鼻息が少し荒くなった。ゴリゴリがらがらとうるさいアナログな音が店内に響く。


『喫茶アヴリオ』
非常にわかりにくい、石畳の路地に押し込まれるように建つその店はしかし、無期限の休業中だ。理由は今まさにあくせく豆を挽いている少年を一人前にするため。だがマスターの治らない顰めっ面を見るとまだまだかかりそうだ。

 頼むから潰さんでくれよ。

そう思いながらのびをすると、ふわりとさくらんぼのような香りが近づいてきた。そっと店の中を伺う少女はうっとりとマスター見習いを見つめている。私がふっと笑って歩み寄ると、少女は甘く焦がれた顔で愛おしそうに私の頭を撫でた。

 やれやれ。今日も仕事をするかな。

毅然と尾を振ってカウンターに飛び乗る。にゃあお、と少女の気持ちになって呼んでやると、少年は救われたように歯を見せて笑った。コーヒーの匂いに染まった、水に荒れた手に頭を擦り付ける。間接キス、ならぬ間接なでなで。私にもよくわからんが、少女をみやると幸せそうなのでよしとする。

きっと明日も彼女は来るのだろう。いつになったら直接話せるのやら。
まぁ、日課がなくなるのもな。

猫はふなぁあとあくびをして瞼を閉じた。

9/30/2023, 12:06:39 PM