126.『20歳』『寒さが身に沁みて』『ずっとこのまま』
20歳になった。
なにか特別なことが起こると思ったが、特に何も起こらなかった。
別に今日に限った話じゃない。
私の人生で、異国の王子様にプロポーズされたこともなければ、勇者しか抜けない聖剣を抜いて魔王討伐の旅に出かけることもないし、異世界転生して女神様からチートをもらえるとかもなかった……
特に特筆すべきものはない、ありふれた人生。
自分が特別な人間であると本気で思ってたわけじゃないけれど、実際に『何者でもない自分』を突き付けられると、それはそれで悲しいものだ。
私はまだ、心のどこかでロマンスを求めている。
20歳になっても、諦めは悪いままだった。
「そうは言ってもだ」
別に自分の人生に不満があるわけではない。
素晴らしい家族に愛され、良き友人にも出会い、お互いを高め合うライバルと火花を散らした。
大学も希望のところに入れたし、サークルでも友人関係は良好だ。
驚くようなドラマはないけど、これと言って不幸もない。
平穏で、満ち足りた良い人生だった。
「あとは恋人がいれば満点だけど……
ま、そのうちいい人見つかるでしょ」
「子供にはモテるんだけどなー」、そう呟いた時だった。
「それはどうかしら?」
「誰っ!?」
誰もいないはずの部屋から声がする。
声のしたほうを振り向くと、部屋の入り口に見知らぬ女性が立っていた。
「ここは私の部屋よ!
出て行って!」
「あら、寂しいわね。
よく知っているはずよ」
「あなたなんて知らない……
……あれ?」
どこか見覚えがあると思った。
ぼんやりとした顔立ち、やや癖のある髪、そして微妙にダサいTシャツ。
まさか!
「お察しの通り、私はあなた。
5年後の、25歳のあなたよ」
私は開いた口が塞がらなかった。
今日まで平凡な人生を送って来た私に、突如未来の私がやってくるだって!?
ありえない。
目の前の状況を理解できず、ただ呆然とするしかなかった。
だが25歳の私は、返事も待たず話を続けた。
「警告しに来たの。
あなたはこのままだと、何も変わらない。
ずっとこのまま、特に変わり映えのない人生を送ることになるわ」
「そんなことっ!」
「そして恋人は出来ない」
「えっ……」
私は愕然とする。
私には、他の何が出来なくても、どうしても成し遂げたいことがあった。
それは恋人を作ること。
平凡でなくてもいい。
幸せじゃなくてもいい。
彼氏が、愛が欲しかった。
でも、5年後の私はそれを否定した。
冬の寒さが身に染みても、暖めてくれる恋人がいない。
どれだけ惨めなことか。
絶対に避けたかった未来を突き付けられ、私はその場で泣き崩れた。
「あなたの絶望は分かるわ……
でも大丈夫。
その未来を回避する方法がある」
「合コンよ」
5年後の私は、親指を立てながら言った。
「出会いがないなら作ればいい。
そうでしょ?」
「合コン……?」
「なんで私が、19歳じゃなくて、20歳の所に来たか分かる?
それはお酒が飲めるようになるからよ。
お酒が飲めるなら合コンに行き放題。
そうでしょ?」
「でも勇気が……」
「確かに私には勇気が無かった。
おかげでずっと独り身……
私みたいに寂しい思いをする必要はないわ。
勇気を出しなさい!」
「そうね。
やってみるよ!」
暗い未来を照らすべく、私が合コンを決意した時だった。
「それはどうかしら?」
「「誰っ!?」」
私と25歳の私は、声のしたほうに振り返る。
そこにいたのは、どこか見覚えのある女性だった。
「まずは自己紹介させてもらうわ
私は、そこで泣いている10年後の私。
30歳の私よ!」
「「な、なんだってーー」」
私と私(25)は驚きの声を上げる。
「話は分かっていると思うから、本題に入るわよ。
合コンはダメ。
諦めなさい」
「ふざけないで!
合コンをせずに、どこに出会いが落ちていると言うの!」
私(25)は私(30)に食って掛かる。
しかし私(30)は気にした様子もなく、そのまま話を続けた。
「確かに出会いはあったわ。
けど、ろくでなしばかり……
どれだけ情熱的な言葉を囁いても、男にとって全部遊びみたいなもの。
すぐに飽きるの。
合コンなんてするだけ無駄よ」
「そんな……」
私(30)の言葉を聞いて、私(25)ががっくりと膝をついた。
「じゃあ、どうすれば……」
「マッチングアプリよ」
私(30)は断言した。
「アプリには本気の人間だけが集まって来る。
遊びの人間なんていない。
どうせ恋人を作るなら、結婚前提で探すべきよ」
「なるほど」
どうやら私(30)の言っていることは正しそうだ。
すぐに行動を起こすべく、私がスマホのロックを外した時だった。
「それはどうかしら?」
「「「誰っ!?」」」
またしても声がした。
私と私(25)と私(30)が振り返ると、やはり見覚えのある女性がいた。
「前置きは無しよ。
私は31歳、よろしくね」
「そこは35歳じゃないんだ……」
思わず突っ込む。
「で、何しに来たの?
マッチングアプリも無駄とか言わないよね?」
私(30)が食って掛かる。
「無駄よ」
予想通りと言うべきか、私(31)は私(30)の言葉を否定した。
「言ってくれるわね。
じゃあ、どうしろって言うの!」
「いいえ、何もする必要はないわ」
「諦めろってこと?」
私(31)は首を横に振り、ゆっくりと左手を上げた。
綺麗な指輪をはめた、左手の薬指を見せつけるように。
「私、この度結婚しました!」
「「「えーーーーー」」」
まさかの展開に、私たちは言葉を失う。
「「「相手は誰?」」」
「親戚に、ショウタくんっていたでしょ」
「12歳年下の子だよね
だから今は8歳にだったかな。
それが?」
「あの子がずっと私の事好きだったんだって。
あの子が私にプロポーズしてくれたの。
もう、嬉しくて嬉しくて」
私(31)が頬を赤らめながら恋する乙女のように身をくねらせる。
およそ31歳のする仕草ではなく、正直直視するのが辛かった。
「おめでとう」
私(30)が祝いの言葉を述べる。
「おめでとう」
私(25)も祝いの言葉を述べる。
「お、おめでとう」
そして、私も空気を読んで祝いの言葉を述べる。
『一回りも年下だぞ』と思ったが、言える雰囲気ではなかったので、そのまま黙っている事にした。
多分、二人には私のあずかり知らぬ事情があるのだろう。
年の離れた恋人でも構わない事情が……
「言いたかったのはそれだけ。
じゃあね」
そう言って私(31)は去っていった。
「満足したから、私も帰るね」
「同じく」
そう言って、私(25)と私(30)も去っていった。
残されたのはただ一人。
20歳の私だけ。
「いったい何だったんだ」
合コンやアプリ登録の決意までしたのに、なんだったのか……
騒ぐだけ騒いで、勝手に帰っていく未来の自分たち。
あれが同じ『私』だとは思いたくなかった。
歳を取るということについて、5分くらい考えた後、私は一つの決断をした。
「とりあえず…… ショウタくんに悪い虫がつかないよう、今の内から可愛がるか」
1/18/2026, 12:53:16 PM