【愛があればなんでもできる?】
かぐや姫に求婚した公達、トゥーランドットに求婚をしたカラフ、我が子を愛した千匹皮の王。
「だからぁ、私は太陽くんが好きだから!」
その太陽くんとやらはアイドルで、君のことなんか一ミリも知らなくて、コンサートのチケットも外れたって、言ってたじゃないか。
「日暮くんのことは嫌いじゃないけど、そーゆーのはない!」
「じゃっ」
声が上ずる。
「じゃあ、僕が、アイドル……いや、芸能人なら、付き合ってくれるの?」
プッ、と笑ったのは彼女じゃなかった。近くにいたらしい、友達の一人。
「うっそでしょ、ヒョロガリ勉の日暮が、芸能人とかなれるわけないじゃん!」
「わ、分かんないだろ!」
確かに今までの人生では興味なかったけれど、でも、彼女の為なら。
「うーん」
佐崎さんは少し考えて、それからクスッと小さく笑った。
「芸能人なら、考えてもいいかもね」
「えっそれって」
「太陽くんと共演して、サイン貰ってきてよ!」
キャハハハ、と笑い声。からかわれたんだと嫌でも分かる。笑いながら遠ざかっていく背中を見送って、スマートフォンを取り出した。
芸能人。アイドルは勿論、俳優、歌手、バンドマン、ダンサー、その他諸々。僕の取り柄なんか真面目で勉強が苦にならない事くらいだ。
「……かぐや姫の公達って、凄かったんだな」
佐崎さんへの愛の重さと、芸能人になるなんて言った自分の軽薄さ。何が何でも火鼠の皮衣を手にしてきた公達のことを思ったけれど、僕にそこまでの勇気も度胸もなかった。だって、かぐや姫は冷ややかに見送ったけれど、佐崎さんには馬鹿にされてしまったから。
「百年の恋って、こうやって冷めるんだなあ……」
5/16/2023, 4:03:36 PM