Eiraku

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夏の忘れ物を探しに

あの日、あの時、置いて行ったものは何だっただろうか。あの人の鈴みたいな声、あの人の穏やかな眼差し、あの人と共に過ごした思い出。木に横たわらせたあの人の体は、冷たくて、とても軽かった。
あの場所は、あの日のまま時が止まっている。
あそこに残した記憶も、気持ちも、取りに行こう。探しに行こう。最初から、何もなかったことに。
私も、あの人の元に帰ろう。私が姿を見せたら、あの人はどんな顔をするだろうか。悲しむだろうか、またとない再会に喜ぶだろうか。私の失敗に、笑って呆れてくれるだろうか。頬に口吸いしたら、どうなるんだろう。大人の余裕なんて一欠片も感じさせない、可愛い反応をするんだろうね。
ゴクン、と喉を小さく上下させ、瓶の中の毒を飲み干す。
____先生。

「ただいま!」

9/1/2025, 11:21:03 AM