『木枯らし』
「寒っ……」
思わず、そう呟いてしまうほどの冷たい北風が吹いた。
マフラーをしていても身震いしてしまった。
私はこんなに寒いのに彼は寒くないのだろうか?
「寒くないの?」
私が彼にそう問うと涼しげな顔をして「うん?全く寒くないよ?」
流石は幽霊と言ったところか…。
彼は一ヶ月ほど前から、私の背後に突然現れた所謂、背後霊というやつである。
今から一か月前。
「ふぅ、やっと家に帰れる」
その日はテストの補習があって本来、帰宅する時間よりも少し遅くなってしまってげんなりしていた。
(·····別に補習なんてやらなくても点数取れるのに·····)
この前のテストで私は歴代最低点をとってしまった。
その理由は風邪を拗らせて満足に勉強が出来なかったからである。
「はぁ、さっさと帰ろ」
憂鬱な気持ちを祓いながら帰路に着く。
(今日の夕飯はなんだろう·····)
呑気に食に思いを馳せていた時、不意に背後から声が聞こえた。
「·····ねぇ」
今にも消えそうなか細い声。
私は振り向いて声を上げそうになった。
だって、私の背後から声をかけていた人物は青白い顔で、身体が浮遊していたのだから。
私が驚きを隠せずに固まっていると、その人物は少し迷ってから口を動かした。
「えっと、驚かせるつもりはなかったんだけど·····、なんか、ごめんね」
とても申し訳なさそうに項垂れている彼を宥めて私は彼から話を聞いた。
彼の名前は風葉(かぜは)。
私の背後霊で、つい最近、成長を終えて目覚めたという。
風葉は背後霊の中でもいい霊で私を守ってくれる守護霊だという。
なので、彼がいる限りは大きな怪我や病気の心配は無いという。
「·····これからよろしく」
「·····えっと、その言葉は守ってもらう側の私の言葉だと思うけど、こちらこそ、よろしく」
そんな、物語のような出会いをしてから今に至る。
「·····っ、ねぇ、寒さは守ってくれないの?」
ガタガタ震えが止まらない体を擦りながら、風葉の方を見る。
「あのねぇ、僕はそんなに鉄壁の守護霊じゃないから、大体、何もかも守ってたら、君が超人みたいに思われるけど、そう思われたいの?」
風葉は呆れていた。
「だって、この風すごい寒いんだもん·····私、凍え死んじゃう·····」
そんなことを言っていると風葉はさらに呆れていた。
「こんな風で死ぬわけないじゃん、この風は木枯らしだからこの時期くらいにしか吹かないし、人間は意外と貧弱だね」
風葉はこの一ヶ月で随分と毒舌になった。
そんな風葉も寒くないといいながら、ちゃっかりマフラー巻いてるし。
ビュウウウウウ。
ひと際、強い風が吹き、私の体は一気に冷えてしまう。
「·····くしゅっ」
等々、くしゃみまで出始めた。
大体、こんな思いをしているのは風葉のせいだ。
風葉がこんなに寒いのに外に出ようと無理やり連れ出すから。
私は風葉をキッと睨みつける。
「まったく、世話が焼けるなぁ」
風葉は自分の巻いていたマフラーを私に巻き始めた。
「な、何してるの?そんなことしたら風葉が寒いでしょ?」
私は赤くなっていっているであろう自分の顔を誤魔化すように言った。
「さっきも言ったけど、俺、全然寒くないよ?それに俺は君を守るために存在しているんだから、こんな所で守れないと背後霊失格でしょ?」
そんなことを言いながら私の首にクルクルとマフラーを綺麗に巻いていく。
(そう言うところが憎めないんだよなぁ·····)
私は、火照った顔をマフラーで隠すように大人しく風葉にマフラーを巻いてもらうのだった。
1/17/2026, 12:40:02 PM