トップの交代が起きて、権力者を統治する人間は入れ替わってしまった。
入れ替わった後の演説で新しい偉い人は言ったのだ。『今までがおかしくて、今からが正当なことなのだ』と。
その『今までがおかしいということ』の証明の先駆けとして行われたのが、演奏者くんの対処だった。
ボクはとっくにその人から見放されていて、偉い人たちが勝手に協議した結果、演奏者くんは殺されることになってしまった。
そのことを知った日、ボクは慌てて彼がいるところに走った。
彼はもう既に襲撃にあっていた。でも、贔屓もなんにもなく、演奏者くんが圧倒的に有利だった。
殺そうと向けられる剣さばきを踊るように避けながら、相手に何かを囁いている。囁かれた相手はどんどんと戦意を喪失していった。
やがて誰も演奏者くんに武器を向けなくなった時、彼はボクに気づいた。
「…………ごめんね」
目を軽く伏せながら彼は言った。
「……なにが」
「きみにとっては僕が殺された方がよかったはずだし、きみのことを知っているのになんにも言わなかったことも」
「…………無事でよかったよ、ボクにとっては」
ボクはそう答えた。だって心の底から本当にそう思ってたから。
彼はボクに向かって驚いたような表情を見せたあと笑った。
「じゃあ、僕はきみのためにこれからも生き続けなきゃ行けないね」
9/7/2024, 1:11:01 PM