『今一番欲しいもの』
家に男の幼なじみを呼んだ。
勉強会だのゲーム会だの適当に理由を付けて誤魔化したけど、あっさり来てくれた。
ベランダに出た私は、空を見て驚いた。
ゲームして、勉強しながらくだらない話して、妹が何だの親がなんだの、どうせ明日には忘れてる内容ばかり語り合って、そんなことしてるうちにこんなに夜がふけていたなんて。
ちらりと目だけで彼を見る。
小声で「綺麗……」と月を見つめる彼。
私は一瞬、頭にある言葉がよぎった。すぐにかき消すべき言葉が、口からそのまま出てしまった。
「……月が、綺麗だね」
ふと零れた言葉が急に胸に押し寄せ、顔がぼっと赤くなる。
「……そうだね、今日満月か……」
彼はそんな意味だなんて考えてもいない様子だった。
「こんなに大きい……手を伸ばしたら掴めそうだね」
物欲しそうに手を伸ばす彼。
月なんかいらない
私はずっと、あなたがほしい
7/21/2024, 10:43:49 AM