ほかの誰も見たことのない道を
私たちは歩いていた。
舗装されていない湿った土と、
雨上がりの匂いだけが目印だった。
風が音を運ぶ度に、
わたしは立ち止まり、耳を澄ました。
その静けさを破らぬように
私も口を閉じた。
——ねぇ、
このままどこまでいけるのかな
わたしがそう言ったとき、
私は答えなかった。
だって、分からなかったから。
行き先も、行き止まりも、
すべてが未完成だった。
でも不安はなかった。
地図に描かれた道は誰かのものだけれど、
踏みしめたこのぬかるみは、
私たちのものだったから。
午後の光はやわらかく、
まるで過去を包んでいくようだった。
誰にも知られない場所で
わたしが笑う。
その声の温度に、私は何度も確かめた。
少し暖かく、湿っぽい。
これは幻じゃない。
この湿った空気も
足跡の残る小道も
私の汗ばむ手のひらも
わたしの短く切られた言葉も
全部
二人だけの。
7/15/2025, 3:14:19 PM