作家志望の高校生

Open App

まさか、こんなことになるとは。それ以外の言葉が出てこなかった。
殴って、蹴って、時に撃って、目標をひたすら処理していく。必要な奴だけを選んで捕縛し、後は全員処分して。捕縛した対象は、半ば拷問に近い尋問をする。それが俺の仕事だった。世の中にはコレを嬉々としてやる頭のおかしい奴も居るらしいが、少なくとも俺は無理だった。血が跳ねて顔にでも付けば汚いと思うし、対象の悲鳴なんて耳障りでしかない。まぁ、人を殺しておいて罪悪感も恐怖も無かった時点で俺もどこかおかしいのだが。とにかく、この狂った闇の世界において、俺は異常なほどまともだった。
それが仇となる日が来るとは思っていなかったが。その日、俺は新人の教育を命じられて地下室へ向かっていた。どうせまたどこかおかしい人間が来るのだろうと思ってはいたが、あそこまでとは思わないだろう。少なくとも、俺は思わなかった。
「あ!もしかして、今日僕を指導してくださる先輩ですか!?」
やたらハイテンションで話しかけられ、俺は悟った。またヤバイ奴が入ってきた、と。もしコイツが普通の一般人なら、この血の匂いと拷問器具、あちこちに飛び散った血痕と肉片の残骸を見ただけで恐怖に震え、人によっては吐いてもおかしくない。ここに来て笑っている時点で、コイツもどこか頭のネジが外れている。
指導を開始してみると、そいつは本当にイカれた人間だった。子犬のように屈託ない笑顔でついて回ってきたかと思えば、尋問の時は若干俺が引くほど冷静で冷酷だった。コイツの教育はすぐに終わった。素質がありすぎたのだ。
そうして、嵐のような教育期間が終わったことで俺はアイツから解放された。どうやらアイツは期待の新人としてこき使われているらしく、俺にもあまり付き纏わなくなった。
嵐か台風か、はたまた竜巻か何かのように俺の日常をぐちゃぐちゃにした奴も、いざ絡まれなくなると若干の寂しさを感じる。
俺は反社にしては思考が表社会の人間に近い。だからかもしれない。台風の日、激しく降り頻る雨を見て面倒だと感じたり怖くなったりする一方で、どこかワクワクしてしまうあの気持ち。アイツに対する感情は、たぶんそれに近しかった。
酔狂なことに、アイツは忙しくなってからも、僅かな暇さえあれば俺について回った。俺も俺で、そんなアイツに段々絆されていった。まさか、俺がここまで全てをめちゃくちゃにされて許すどころか、若干の愛おしささえ感じる日が来るとは思っていなかった。
俺の周辺をめちゃくちゃにしながら、ドタバタと忙しない日々を送るアイツは、なんだか可愛らしくて、俺は初対面で一通り荒らされた心を片付ける暇もなかった。隣に立つ台風みたいな奴を手放せなくなってようやく、俺も普通じゃなかったんだと自覚した。

テーマ:台風が過ぎ去って

9/12/2025, 9:34:08 PM