どういう話の流れだったのだろう、もう思い出せないけれど、あるときぽつりと彼がこぼしたのだ。
「……なあ、秋穂サン」
秋穂は彼を見やって、口を開いた。
「どうしたの? 郡司くん」
彼はちらりと彼女を見て、もじもじとしている。辛抱強く答えを待っていると、彼はおずおずと口を開いた。
「……あのさ、幸せって何だと思う?」
秋穂は目をぱちくりさせて彼を見た。仄かに顔を赤らめた彼が、彼女を見つめ返す眼差しは思いの外真摯なものだったので、彼女は居住まいを正して思案する。
ぐるぐると頭の中で言葉が浮かんでは消えていく。
上手に言葉にできる自信はなかった。でも、きちんと伝えておかねばならないとも思った。
「わたしにとっての幸せは――あなたとこうして過ごせることかな」秋穂はそう言うと微笑んだ。「……ありきたりかもしれないけどね」
1/4/2024, 2:57:07 PM