hot eyes

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※流血表現あり

放課後、独りブランコに座る。

少し錆びついているせいでキィ、キィ、と音が鳴る。

今日、学校で全校集会があった。

真剣に聞く人、悲しむ人、哀れむ人、驚く人、どうでもよさそうな人。

人が、それも同じ学校の生徒が死んでいるのだから、出来ればどうでもよさそうな態度でいるのは止めてほしい。

俺は買ったアイスを袋に入れたまま。早く食べないと暑さで溶けてしまうだろう。でもそれはどうでも良かった。

一週間前、陽太(ひなた)が死んだ。

トラックのながら運転による事故で。

重軽傷者は多数いたが、死んだのは彼だけだった。

俺はアイスの様子を見る。まだ溶けていなさそうだ。

アイスは二つ。ミカン味とソーダ味。いつも俺はミカン味を食べる。彼はソーダ味だった。
放課後、こうやってブランコに二人で乗ってアイスを食べるのが夏の習慣だった。だからコンビニに行った時、間違えて癖で二つ買ってしまった。
買う必要なんて無かったんだが。

彼と出会ったのは高校入学の時。出席番号順で隣になったのが彼だった。髪色が真っ黒の俺と違って明るい綺麗な茶髪を持っていたのが印象的。
彼は見た目もよく、誰にでもフレンドリーで、気さくで話しかけやすい人物で、一方俺は窓際で一人本を読んでいるようなやつだった。

何がきっかけで話し始めたのかは覚えていない。でも、いつの間にか彼の周りの友人より仲良くなっていたのは覚えている。

楽しかった。ただそれだけだった。

あの日、俺達は交差点で信号が青に変わるのを待って歩き出そうとした時だった。
俺の靴紐がほどけていたのに気づいた。

一瞬、一瞬だけ立ち止まった。

彼が後ろを振り向いて、縛ってからでいいよ!先にアイス買ってくるね~と先に歩き出した。待て、そう言おうとしたがもう既にかなり遠くにいた。俺は仕方なく道の隅で靴紐を縛っていた時。

硝子の大きく割れる音がして、地面が少し揺れ、悲鳴が聞こえた。

俺が顔をあげて立ち上がると、そこにはコンビニに正面から突っ込んでいるトラックがあった。
「陽太?」
辺りを探しても見つからない。彼の明るい茶髪は何処にも見当たらない。
「陽太!!」
俺は人混みを掻き分け、彼を探す。
「ひな」
た、そう言おうとした時、粉々に割れた硝子と車体が抉れたトラックの間から腕が見えた。

血塗れの腕が。

俺はそこまで思い出すと気分が悪くなった。

あの時、俺が陽太を止めていれば陽太は巻き込まれなくて済んだのではないか。

俺ではなくて、陽太の靴紐がほどけていれば良かったのに。

そんなことを思っても、過去は戻ってこない。
陽太はもう生きていない。

俺が陽太の分まで幸せにならなくては______いや、俺が陽太の手に入れるはずだった幸せを、この世界で手に入れる必要がある。
俺の幸せなど彼の幸せに比べれば小さなものだ。だから問題ない。

俺は袋の中のアイスを取る。

彼がいつも食べていたソーダ味。びり、と袋を破ると真っ青なアイスが出てくる。俺はそれを頬張った。
頬が冷たくて痛い。初めて食べる味だ。少ししょっぱいな。

確か、陽太は食べている時はいつもこう言ってたな。

「嗚呼、『幸せだなぁ...』」

今の俺には似つかわしくない言葉だな。ソーダってこんなにしょっぱいのか?暑いのか汗もかいてきたな。家に帰った方がきっと快適だろう。


でも、まだ帰らないでおこう。


夕暮れ、公園でブランコが一つキィ、キィ、と揺れていた。

お題 「ブランコ」
出演 真人 陽太

2/1/2024, 2:19:30 PM