名無し

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《入道雲》

ゆっくりと、入道雲の下を飛行機が横切るのを目で追った。

まだ蝉も鳴かないのに、夕時になっても陽の登ったままのこの季節の中で、ただ1人取り残されたような気がして立ち止まる。


昨日までは雨が降っていた。それも、傘を強く打ち付ける耳障りな雨。
いつだったか、傘に落ちる雨音は銃声に似ていると言った人がいた。

深く息を吸えば、濡れた土や植物の匂いと過ぎた湿気で、鼻が鋭い痛みを訴える。

雨というのは色々と思い出す日だと思う。
母は一度足の骨を骨折してから、いまだに雨の日はその骨が痛むと苦笑していた。

古傷、それは身体に限らず、人々の心までしっかりと刻まれて残り続ける。
それでもまた、雨が止み、空が晴れれば存在を消したように影をなくす。



飛行機を見上げるのは平和の印だと誰かが言った。

昨日までの雨が嘘のように晴れた青空に、堂々と浮かぶ入道雲を、もう一度眺めて祈る。


もう二度と、雨が降ることのないように。


6/29/2024, 1:25:02 PM