明日にはいない人

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街を歩くと色んなことを感じる。菓子屋の香ばしい焼き菓子の匂い、電車の走る音、人々の話し声、足音、カラフルな看板、前を横切った目をみはるような美しい人、見惚れているとひゅうと風が髪をなでていった。

騒がしいのは好きじゃない。けれど街の喧騒は好きだ。まるで、カラフルな街の油絵の一筆の色になれた気分。自分もこの街の一部だと思えるのが好きだ。

一人ではなく、数え切れないほどの情報のごく小さなひとつ。そう思うと、私はとても安心できた。

私が何をしようと、何を考えていようと誰にもなんにも影響がない。誰も私を見ていないし、私も他人のことなんか気にしない。

ただ自分の仕事をするだけ。自分のやりたいようにするだけ。

けれど、一人ひとりに人生がある。

これはとても不思議で、私の世界には私一人の意識しかないのに私の視界に見える人たちにも私のような一個人の意識がある。

それらが、思い思いに生きている。

まさに街の油絵。たった一つの小さな色が絵を美しく映えさせる。1色入れなくともその絵は街の絵だとわかる。しかし、完成させるにはどの色も欠けてはいけないのだ。

街の景色に溶け込むたびに、季節が変わっていくたびにこの瞬間を切り取りったものが芸術と呼ばれるのだろうなと思う。

6/12/2024, 11:03:33 AM