望月

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《もしも未来を見れるなら》

 窓枠に体を預け、少女は溜息を吐いた。
 この国はどうなって往くのだろうか。
 唯一無二の存在を喪ってしまえば、この国は崩壊してしまうのだろうか。
 知りたいようで、知りたくない。
 魔法使いという存在が世界を牛耳るようになって幾星霜、人々は彼らを畏れ敬ってきた。彼らを至上の者として扱ってきたのだ。
 而して、時が経つにつれ畏れは変化を遂げた。
 何故魔法使いよりも圧倒的に数の多い“ヒト”らが、彼らに媚びへつらうばかりなのか、と疑念に変わったのだ。
 かつての魔法使い達は、その力を国やヒトの支配へと及ぼした。けれど、最近はどうだ、魔法を使ったところさえ見たことがないではないか、となったのだ。
 それをきっかけにヒトらの疑念は畏怖の影で募り、やがて、一人の魔法使いが命を落とすまでに表面化されるようになった。
 これ以降の歴史は、語る程のものでもない。
 魔法使い達による、血祭りが始まったのだ。
 国の何処を見ても血が流れており、断末魔が聞こえる。
 後に魔法使い達の暴走として扱われるこの時代は、ヒトがヒトとして生きてはいけない時代であった。
 だが、ヒトの歴史にとって地獄の時代は、ある男の存在によって終焉を迎える。
「ヒトは弱く脆い。だが、数多の同種を伴って何度も立ち上がる生き物だ。今こそ、我らの力を世界に示すときではないか」
 そう唱えた男が一人、国の守護者となってヒトらの指導者となったのだ。
 魔法使い達は彼を主軸としたヒトの群れを侮っていたが、気が付けば彼らによって魔法使いの数は減少していた。
 一人二人と数は減って往く。
 既に手を打つ時間もなく、魔法使い達は、狩られる側へと堕ちていたのだ。
 これらの全てが、ヒトが覇者となる時代の黎明期となった。
 けれど、魔法使いが全滅した訳ではない。
 今度は国の守護者として、あるいは戦力としてヒトは彼らを囲うようになったのだ。
 協力を拒む者には恐れを与え、死を与え、共に手を携える者には奇跡を与えろと。
 それはヒトでも魔法使いでも同じだった。
 時に同族を殺しながら、魔法使い達は各国で名を轟かせるに至った。
 そんな存在の彼らがいなくなった世界とは、どのようなものか。
 少女はそれを考えて、知ろうとしているのだ。
「もしも未来を見れるなら——」
 ヒトも魔法使いも、幸せに過ごせる世界でありますように。
 そう願って未来を見るだろう、と少女は思う。
 もう二度と、仲間である筈の同族を殺したくはないのだから。
 だが残念なことに、そんな魔法はない。
 だから今日も、少女は一人で王城の塔の最上階に囚われているのだ。

4/20/2024, 9:33:23 AM