薄墨

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赤い固い芽がぴょこぴょこと顔を出している。
今年も、この地に芽吹きのときがやってきた。
柔らかい土のあちらこちらには、まだ真っ白い雪が僅かに残っている。

芽吹きのときはやってきた。
たった一種族の生き物の傲慢と凶行の結果に汚染された、この地にも。

一種類の…僕たちの思い上がった思想からもたらされた高効率、高エネルギーの技術はこの世界を瞬く間に席巻した。
そして、深い過ちを犯した。

この技術は、その使用によって僕たちに凄まじいリターンを与える一方で、僕たちの環境を脅かすものでもあった。
この技術が広がっていくたびに、この技術による汚染が広がっていくのに、僕たちは気づいていなかったのだ。

最初の悲劇はここで起こった。
例の技術に使っていた魔法陣が暴走し、この地は瞬く間に汚染された不毛の地になった。
なったはずだった。

事故後のこの地は、そりゃあ、凄まじいものだった。
植物という植物は枯死し、生物という生物は無機物に成り果てた。
破壊し尽くされたこの地には、灰色に燻る、焼け残った生物の死骸しかなかった。

しかし。
しかし、果たして、今年も芽吹きのときは訪れた。

燻り黒焦げた木の枝には、赤く固くしまった新芽が顔を出している。
グスグスと煮立った黒々とした土の中には、新緑の小さな双葉が目を出している。

芽吹きのときはやってきたのだ。
こんなに汚染され、捨て置かれたこの地にさえも。

温かな日差しが、黒々と生気を失った土に投げかけられている。

その土の下には、芽吹こうと固い土を持ち上げる、若緑色の芽があるのだ。

3/1/2025, 2:42:06 PM