【ハッピーエンド】
革命には民衆を導く英雄が必要で、英雄には倒すべき悪役が必要だ。だからどこまでも高い青空の下、両手を広げてお前を振り返った。
血の一滴も流れない、犠牲者のいない革命なんて、そんなのしょせんは夢物語だ。それでは熱に煽られた民衆は納得しない。新たな時代の訪れを理解できない。古く悪しき権力の象徴を、誰の目にもわかる形で打ち倒さなければ、この世界は何も変わりはしない。
「いい加減、この馬鹿げた革命劇を終わらせよう」
英雄と人々から持て囃された男を真っ直ぐに見据えて、口角を持ち上げる。黒幕よろしく、高らかに嘲笑った。
「ここにまだ、王家の人間が立っている。お前たちのおかげで、他の連中を追い出せて助かったよ。これで俺が、俺こそが、この国の王。民主主義を謳うなら、この俺を倒してからにしろ」
お前の掲げる理想論は、好きだった。民を思うお前の願いは本物だったし、平和な未来のためにと奔走するお前になら協力しても良いと思った。だから父も兄も貴族たちも裏切って、革命の手助けをしてやった。
誰も殺さず、王家の特権だけ無くせば良いなんて、本当にお前は甘すぎる。優しく美しい理想の世界など、結局は幻想に過ぎない。現実はいつだって、厳しく残酷だ。
どうしてと。泣きそうな顔で問う『英雄』に、答えてやれる言葉は俺にはない。俺は『悪役』、ここで打ち滅ぼされるべき『敵』。何でも教えてやって時には叱ってやる頼りになる仲間では、もういてはやれないんだ。
お前に力を貸すと決めた最初から、俺はこの時を待っていた。これが俺の望むハッピーエンド。俺の選んだ、最上の結末。
(さあ。俺を殺して、この革命を終わらせてくれ)
かくして裏切り者の悪しき王族は正義の英雄の手で始末され、世界には平和が訪れました。めでたし、めでたし。
この鮮やかな英雄譚の最後の一文は、そう締め括られることこそが最も相応しいのだから。
3/29/2023, 1:22:38 PM