夜が訪れればいずれ朝がくる様に、夢見がどうであれ眠れば必ず目を覚まし⋯⋯そして私は今日も目覚めてしまった事を後悔しながらベッドから這い出るのだ。
いつも通りに朝を迎え、決められた通りに全てをこなしてまた夜を迎えて眠りにつく。
特別な事など何もなく、ただただ機械のように行動を繰り返す。
何も変わらない世界。全ては予定調和であり、なにもかもが設定されたプログラムの様な世界なのに、誰一人としてその事実に気付かず⋯⋯これが当たり前だと思っている。
平穏という名の狂気の中で、作り笑いを浮かべて幸せだと宣(のたま)う彼等の中で、擬態しながら生きる私も結局は同じ穴の狢なのだ。
それを理解しながらも止められないのは⋯⋯異端として排されるのが怖いから。
この心理さえ捨てられれば、もっとずっと自分らしく生きられるのにと何度も思う。それでも捨てられず、いまだ自身を縛り付ける枷となっていた。
全てのルーティンを終えた放課後の校内を、そんな下らない事を考えながら足早に歩いていく。
目指すは屋上―――柵を越えた向こう側。
空に近くて最も遠い場所であるそこに、手荷物の鞄と靴を揃えて置いて今⋯⋯吹き荒ぶ風を感じながらその手を放した。
重力に沿って落下していく最中、物凄い風圧と共に酷く耳障りな風の音を聞かされた刹那―――かなりの衝撃が走り、それと同時に激痛が全身を巡る。その痛みも少しずつ感じなくなっていく最中、周りの喧騒も徐々に遠ざかっていった。
自身の意識が途切れる直前、上手く回らないその口で呟く。
“さよなら世界、またあう日まで”
◇ ◇ ◇
夜が訪れればいずれ朝はくる。
夢見がどうであれ、必ず目覚めなければいけないから⋯⋯そうして私は、また目覚めてしまった事を自嘲しながら小さく呟く。
『さよなら昨日の世界⋯⋯そしてはじめまして、今日の世界。本日限りでよろしくどうぞ』
3/22/2025, 2:11:29 PM