秋風
ごみごみとした灰色の街に重たい雲が低く垂れ込めている。すれ違う人は皆疲れ切った顔をして、俯きぎみに歩いていく。私も例に漏れず、冷たい秋風に身を縮めながら足早に帰路を急いだ。
薄手のコートは今日になって突然下がった気温にまるで太刀打ちできず、私は寒さに思考を奪われたまま無心で足を進めるうちに、一つ曲がる道を間違えたことに気づいた。私は愛する家族の待つ我が家ではなく、独身時代に暮らした古いアパートのある路地に立っていた。
私は早く引き返すべきだと思いながらも、あのアパートを一目確認したい気持ちを抑えられなかった。私は夢遊病者のようにふらふらとアパートの下へ近づき、かつて帰った部屋の窓を見上げた。
カーテンのかかった窓から黄色い灯りが漏れ、背の高い男のシルエットが浮かんでいる。落ち着きなく行ったり来たりを繰り返す影に、「ああ、彼だ」と私は奇妙な感慨を覚えた。同時に、かつて一つ屋根の下で暮らした彼がひどく遠くへ行ってしまった気がして、侘しく辛い気持ちがじわじわと心を占めた。出て行ったのは私の方なのだから、明らかに身勝手な感情だった。
もし今すぐに階段を登って、あの部屋を訪ねたなら、彼は親しい友人として私を歓迎してくれるだろう。温かいコーヒーと趣味の良い茶菓子を供してくれさえするだろう。彼にはそのような健気な優しさがあって、しかし私は最早それに甘えることはできない。そんなことをするのはあまりにも不誠実だからだ。
私は後ろ髪を引かれながら踵を返し、本来の帰り道へ戻った。私が選んだ家が、あの窓の灯りよりも暖かく私を迎えてくれることを願いながら。
11/14/2023, 1:57:07 PM