僕が学校行かなくなってから3ヶ月が経った。
理由については話したくないので話さないが、それでも京子ねえちゃんは何も言わずに学校から帰ってくるとりんごや柿や梨を剥いてくれる。
京子ねえちゃんは本当のお姉ちゃんじゃなくて隣に住んでる遠縁のねえちゃんだ。
大人しくて美人だけど気が弱いわけじゃないので、怒らせるととても怖い。
僕が学校行かなくなったのにはそう分かりやすい理由があるわけじゃないので説明出来ないが、そもそも京子ねえちゃんは理由を聞いてこない。
毎日自分が好きな果物を剥いてお裾分けしてくれる。
僕が学校行かないのに理由はなくても、結果としては全然行く気がないという点ではブレがないのだが、大人は理由の方が大事だったりする。
京子ねえちゃんはまだ子供と大人の中間だから、何も言わずに梨を剥いてくれる。
「ホイ、雄哉食べな」京子ねえちゃんが赤と青の皿の上に梨を剥いて小さなフォークをつけて僕の前に差し出す。
僕の口の中で梨はしゃりしゃりと音を立てて柔らかくほぐれていく。
梨は−−歯の下で柔らかいのに、ちょっと硬いみたいなしゃりしゃりした音を出してほぐれていく。
京子ねえちゃんは気が弱いんじゃなくて、怒るととても怖いのだが、そもそもめったに怒らないし、怒らせると怖いと知っているから、怒らせないようにする。
梨みたいだな、と僕は思う。
柔らかいけどチョロいんじゃないのだ。
僕が学校行かないのも、理由はないけどチョロいんじゃない。
梨は少し甘い。
ねえちゃんも少しだけ僕に甘い。
チョロくはないけど。
了
10/14/2025, 10:22:13 AM