ある日突然、僕の部屋の中に人間らしきものがいた。全身タイツを履いたかのように真っ白だが、顔の凹凸も体の突起とかもない。まるでマネキンのような、3Dでモデリングした人間よようである。背の高さや体型的には男?オス?のような気がするが、わからない。とにかく僕は、すごく懐かれた。
一つ一つの仕草が、なんとなく愛らしく感じてきた頃。変化が訪れた。いつもはシャキシャキ動いていた彼だが、いつもよりのんびり動くように見え始めた。最初は気のせいかと思ったが、次第に部屋の隅から動かなくなるようになって気のせいじゃないことがわかった。
部屋の隅から動かなくなって数日経つと、今度は手と胴、どれから両の脚がくっつき始めた。だんだん死んでいくような冷たい感覚が、怖くて悲しくなっていた。
やがて手足や頭の形がわからなくなり、彼はまるで蛹のような姿になった。僕は、生きているのかそうでないのかわからないまま、どんな時よりも長いひと月を過ごした。二人で過ごした日々を思い出して、もう一度会えたならと願って眠りについた。
それは突然現れた。白い蛹の背中が割れて、人間の背中が見えた。中から出てくるのに苦戦しているように見えたが、不思議と手伝ってはいけない気がした。頑張れ、頑張れ。手を組んで、祈るように応援する。中から眩い光が見えて、それで
「おーい、遅刻するぞ」
目が覚めると、目の前に恋人がいた。宝石のようにキラキラと輝く二つの瞳は、いつも通り美しく素敵だ。
そうだ。あの中から出てきたのは、僕の恋人だ。僕のために大学デビューをした可愛い人。僕はずっと、彼の言う「もさっとした」時から好きなのだけれど。きっと、彼は蝶のように蛹から出てきて美しい姿になって会位にきた。そう思っているだろうか。でも僕としては、蛹の前から好きなんだ。そう思うと、ちょっと笑いが出てきた。僕が、彼よりももっと愛が深いのかもしれないことに。
「何笑ってんの?」
「ふふ、別に。今日も好きだなぁって」
僕の言葉に、彼は得意げな表情になった。そこに淡い朝の光が差し込んだ。
今日もいい日になりそうだ。
8/31/2023, 1:15:50 PM