「何故そこまでするんだ?」
もう分かんないよ。
『私の命令に従いなさい。』
ある時、神様が舞い降りて、こう言った。当時はどういう事か分からなかった。しかし、段々と分かるようになってきた。僕は神様のために存在しているのだと。
この国では、昔からあらゆる所に神様が存在していた。それはきっと、人間の心の中にもだ。僕はそんな人間の心に住み着く神様の言葉を信じ、実現してきた。それが悪い事でも、神様の命令は絶対なのだ。
ある夏の日、神様が舞い降りて、こう言った。
『人間を一人、殺しなさい。』
僕は頷き、ナイフを持って出かけた。向かう場所は、僕のたった一人の友達の家だ。
「急にどうしたんだ?」
彼は僕の突然の訪問に戸惑いながらも、笑顔で出迎えてくれた。僕はそんな彼を、直視できなかった。
「お願いだから、僕に殺されてくれ。」
僕の狂った言葉に、彼は動じなかった。彼は僕に小さく、理由を聞いてきた。
「僕の神様がそれを望んだから。なんて言ったら笑う?」
彼は頭を振った。その顔は微笑んでいた。
「得体のしれない神なんかに、何故そこまでするんだ?」
「分からない。でも、生きる理由が欲しかったのかも。」
僕は泣いていた。酷く愚かな事をしている気がした。そんな僕を見て彼は、少し同情しているようだった。
「可哀想だから、殺されてあげるよ。」
僕は震える手でナイフを握り、彼に向けた。彼は全てを受け入れるように、笑っていた。
彼を殺したあとも、体が震えていた。もう僕は戻れないんだ。僕が泣いていると、神様が舞い降りて、こう言った。
『私を殺して。』
神様の殺し方なんて知らない。でも、この神様は僕の心に住み着いている。それならば、殺し方は一つしかない。僕は持っていたナイフで、自分の腹を割いた。
7/27/2024, 3:46:32 PM