「え、雪(ゆき)って『あの』実(みのる)と付き合ってるの...?」
大学の食堂。俺はスパゲティを、葉瀬(ようせ)はカレーを食べていた。
「え?うん。それがどうしたんだよ」
恋愛の話になり俺が実と付き合っていることを話すと、葉瀬は渋そうな顔をした。そして恐る恐る口を開き、
「......悪いことは言わないからさ、別れた方がいいよ。実と」
そう言った。
「...は?え、何急に。脅し?」
「いや本当にアイツは止めた方がいい。冗談とかじゃなくてさ」
葉瀬は運びかけていたスプーンを皿に下ろす。そしてキョロキョロと辺りを確認したのち、少し身を乗り出して小声で話す。
「.........その、実ってさ、女遊び激しいって噂あるんだよ」
...まさか。
「......葉瀬、言っていい冗談と悪い冗談あるから」
「だから冗談じゃなくて」
「っ止めろってば!」
少し声を張ってしまったかもしれない。そんなことは気にせず、葉瀬を睨む。
「...っご、ごめん」
「もう言わないって約束して」
「もう言わない。ごめん」
「......いいよ」
葉瀬はカレーの皿を見つめて動かない。俺は我に返って、冷たい空気を壊した。
「もういいから、カレー冷めるし食べよう。な?」
「...うん」
そう言って俺達は再び食事を始める。
「...雪、最後にこれだけ言わせてくれ」
「ん?」
「雪が......雪が幸せならそれでいいけど、時々でいいから自分の事客観的に見てね」
なんて話してたのが一年くらい前。
あの時、ちゃんと葉瀬の話を聞いておけば良かったのかもしれない。
今日は俺と実の一年記念日。早く帰ってきてって、ちゃんと言ったのに。
実は俺じゃなくて、他の人を選んだ。
ビリ、ビリ
一つ一つ、料理をラップで包んでいく。
「......ぅ...」
ぽた、ぽた、と机に涙が落ちる。
「うぅ......ぅ...っ......ぅう...」
脱力して、床に座り込む。
(...俺、実のどこが好きだっけ)
ぼんやり考えてみた。
俺ばっかりが好きだったみたいだな。そういえば実から名前で呼ばれたのっていつだっけ。
「はは......わかんないや......」
なんて考えていたのが実が帰ってくる四時間前の話。
お題 「終わりにしよう」
出演 雪 葉瀬 実
7/16/2024, 9:38:28 AM