別に今のままでいい。
子どもが欲しいわけではないし、いつもそばにいてくれるし。結婚したからといっていつもの生活に何か変化があるわけでもない。彼女への愛が変わるわけでもない。
夫婦なんて契約で繋がった男女関係にすぎない。むしろお互いの信頼と愛情でしか繋がっていない脆くて壊れそうな今の関係の方が尊く美しいのではないか。
休日の昼下がり、インスタで見つけたカフェに行きたいと言う彼女の提案で郊外にある和喫茶店にやって来た。穏やかな老夫婦が経営しているというお店はどこか懐かしく落ち着ける雰囲気に溢れていた。東京では珍しい雰囲気が若い女性の間で密かに人気らしい。
カウンターに通され抹茶ラテを注文した。時折言い合いをしながらも阿吽の呼吸で注文を捌く老夫婦を見つめて彼女がぽつりと言った。
「将来こんな風になりたいね」
正直僕も思っていた。老夫婦からは信頼と愛情だけではない、ガラスをふっとばすような嵐が来ても乗り越えてきた強さが感じられた。そして契約に縛られたからこその深い深い愛情が。
僕は思わず彼女の手を握った。
11/22/2024, 11:03:43 AM