いぐあな

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300字小説

幸せ問答

『幸せとはなんじゃ?』
 学生時代、山で禁忌と呼ばれる場所に迷い込んだとき、出会った黒い影に俺は問われた。答えられねば喰うと言われたが、どうしても答えが出なかった俺にそれは笑った。
『十年後の今日、再び問う。そのとき、答えられねば喰うぞ』

 そして十年後。炬燵でウトウトしていた俺の前に黒い影が現れた。
『幸せとはなんじゃ?』
「今の俺には『これ』かな?」
 ようやく寝かしつけた腕の中の娘と、俺の隣で、うたた寝をしている妻。
 それがニンマリと笑う。
『確かに』
 答えられた祝いだと渡されたのは、新鮮なワカサギと酒の入った徳利。
『久々に良き答えを聞いた。その『答え』を大切にな』
 楽しげに鼻歌を歌いながら黒い影は消えていった。

お題「幸せとは」

1/4/2024, 11:41:53 AM