「おや。存外飽きるのが早かったじゃないか」
手の中の砂時計をこれみよがしに掲げてみせながら、男が言った。
「あの男のことは、もういいのか?」
この夜が明ければ、謂れのない罪で処刑される私の前に唐突に姿を現した、上流貴族としか思えない出で立ちの男。地下牢の柱に繋がれた足枷の鎖を引きずり、男の足に縋りついて涙ながらに助けを求めた私は、そこでようやく、何もかもを思い出した。
そうだ。
この男は──私の望みを叶えた、悪魔だ。
私はこの人生を、何度も繰り返していた。まるで小説の悪役令嬢のような人生。運命に抗うように生き、けれど毎回この地下牢に繋がれ──そうするとこの悪魔が、私の人生の砂時計をひっくり返しに現れるのだ。
私は望んで、この人生を何度もやり直してきた。
やり直せば彼は、きっと今度こそ私を見てくれる。いいえ、見てくれなくてもいい──どんな運命でも、彼の側にいられるのなら。私の愛はそれほどまでに深くて、だから……!
けれど。あろうことか私は、この悪魔に助けを求めてしまった。「もう繰り返したくない」と、悪魔の足に縋りついて……。
「さて。お前の望みを叶え続けた我の愛は、ここへ来てようやく報われるか? それともお前は、まだあの男へ真実の愛とやらを捧げ続けるのか? まぁ……選ぶのは、お前だ」
サラサラサラ。細く落ちていく砂の音が、頭の中にこだまする。選ぶのは私。私が選ぶ愛は、勿論──。
しばらくして。私の口から放たれた言葉を耳にした悪魔が、その手をゆっくりと手を広げる。パリン、と石床にぶつかる『砂時計の音』を聞きながら、私は安堵し、そして絶望したのだった。
10/17/2025, 6:14:17 PM