たろ

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【誰もがみんな】


あなたは、誰もがみんな声を掛ける素敵な人。陽だまりのような暖かな人。
どこかに連れ去られそうで、心配になる。
(お願い、何処にも行かないで―――。)
声が喉元までせり上がってくるのを、慌てて飲み下す。

あなたの周りは、いつもたくさんの人で溢れていて、誰もがあなたを好きになる。
あなたは、誰にでも優しくて、嫌な顔ひとつせずに、屈託なく喜怒哀楽を伝えられる素敵な人。
(あぁ、また埋もれて。)
囲われて何処かへ連れて行かれてしまうのではないかと、ハラハラする。
遠巻きにそっと見守るように、あなたを視線で追う。少し胸が痛んで、肩にかけている鞄のベルトをぐっと握り締めた。
(―――っ。大丈夫、いつもの事だから。)
溢れる取り巻きの中へ入ることも出来ず、見守るしかない。
せめて、穏やかに笑って戻ってくるのを待ちたいのに、心は少しもままならない。
視線を外すことも出来ず、居た堪れなくなって俯いた。枯れ葉が1枚、風に流されて足元へ寄り添った。情けない自分を映しているような気がした。


ふと気が付くと、囲みの中からあなたが大袈裟に手を振っていて、満面の笑みを寄越していた。
小さく手を上げると、囲みの中からこちらへ走り出てきた。
「かっちゃん、ごめんね!おまたせ。行こう!」
あなたは囲んでいた人たちに向かって、大きく手を振って、お礼を言っている。
「場所聴いてきたから、こっち!」
躊躇いなく自分の手を握るあなたの手に釣られて、歩き出した。

2/10/2024, 12:35:10 PM