冷瑞葵

Open App

空白

 教科書の表紙裏で空白の美しさについて語られていたのを思い出した。中学の国語の教科書だったかな。木々が描かれた水墨画が見開きに載っていた。面積比で言えば7対3くらい、画面の大部分がくすんだ半紙の色をそのまま残していて、クリーム色の見開きの端に空白の意義について書かれた文章が追いやられている。
 授業でこれについて多く触れられた記憶はない。先生は空白の美学というものにさほど共感しなかったらしく、ほんの一言程度触れてサラリと飛ばされた気がする。でも私はなぜかこの白黒の作品に魅入られた。多分このときはじめて空白を主役として認識した。何もない空間の空気に思いを馳せると、途端に2次元の世界が遠くへ遠くへと広がっていく。この日から私は「何も無い」という一つのモチーフを獲得したのだと思う。
 いつか「何も無い」をテーマに物語を書いてみたいな。もしかしたらあのときのように、チラリと見るだけで流されてしまうかもしれないけれど。

9/14/2025, 9:38:21 AM