海汐かや子

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わたしが誕生日を迎えた日には、必ず一人で遠足に行くことにしている。場所はどこでもいい――近場の山でも、車で二時間ほど向かった先にある神秘的な沼でも。お気に入りの水筒と、一つだけ選んだ百円以下の菓子を鞄に入れて、ぼぅっと自然を眺めながら歩くのだ。

今日は二十七回目の誕生日。四月十八日。
わたしは車で三十分ほどの人気のない湖に行き、堤防に腰掛けて七十二円のドーナツを口にする。

心に沁みるような青空。足元から響く波の音。舌に広がる甘いチョコレートのドーナツ。首元を撫でる優しい風。水筒の蓋を開けようと、だらしなく食べかけのドーナツを口にくわえた瞬間だった。

ドーナツが落ちて、ぽちゃん、と音をたてて水の中に沈んでしまった。しまった、落としてしまった――。

思わず「あぁ」と情けない声が漏れる。まだ半分しか食べていなかったのに、と恨めしく水面を睨んでいると、急に足元から「う、美味い!」と男の子の声が聞こえた。

ぎょっとして堤防から離れようとした瞬間、誰かがわたしの足首を掴んだ。力強く冷たい手に、ぐん、と身体が水面に引っ張られる。

落ちる!

4/3/2024, 12:08:35 PM