#夜の海
わたしの家から海に行くまではだいたい車1時間かかる。だから、海なんてここ3年くらい1回も見ていない。でも、目を瞑るといつの記憶か分からないけれど、どこか懐かしいような海がはっきりと想像できる。しんとした自分の部屋の中で意識を海の方まで持っていく。床に座ってそっと目を瞑り、夜の海を想像してみる。
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辺りには誰もいない。月明かりに照らされて、波がきらきらと反射している。ザッザッ。幾度も打ち寄せる波が潮の匂いを運んでくる。
私は波打ち際の砂を、裸足になってゆっくりとなぞる。そっと両手でざらざらした砂を掬って、ぱらぱらと波に投げてみる。
少し疲れたから、砂浜に座って、灯台のぼんやりとした光に照らされた暗くて深い藍色の海を何にも考えずに眺める。
海に入ってみたいな、ふと私は急に思う。私はお尻についた砂をはらってゆっくりと腰を上げて冷たい砂の上を歩く。あっ。波に少し足が入った。波は思ったよりも軽くて優しい重さだった。足首に届くか届かないかくらいまで、何度も何度も打ち寄せてくる波がなんだか愛おしくて、私は少しずつ移動しながら波を楽しむ。気づけば、波は私の膝あたりまで来ていた。
ザッパーン。急に大きな波が私を襲った。波は頭のてっぺんまで私を覆いつくし、私を勢いよくさらった。
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また、辺りには静けさが訪れた。夜の海は月明かりに照らされていつまでもいつまでも綺麗だった。
8/15/2023, 10:26:39 AM