「じゃあふたりで行きます?」
突拍子のないふたりという単語にドキッとしたのは自分だけで、その声の主は何気ないような口調だった。分かりやすく自分だけが動揺している。相手にはこの空気を知られるわけにはいかなかった。
「そうしようか、」
極限に普通を極めた声。何事にも動揺しないような俺の声。それは今日は暑いな、だとかコンビニ行く?だとか、まるでそんな声質だ。
「分かりました!じゃあ、8がつ31にち、ごご5じに新宿駅で!」
見えない耳が立って見えない尻尾をブンブン振るような健気な後輩の待ち合わせ文言に頷いた。まるで全て平仮名のような舌足らずに感じる話し方も、茶髪がかったふわふわな髪の毛も、自分のものには到底ならないと分かっているから、俺は曖昧に笑って誤魔化す他なかった。
夏が終わろうとする。どれだけ夕陽が伸びても、俺はまた何も言えなかった。
/ふたり, 8月31日、午後5時
9/1/2025, 3:59:36 AM