かたいなか

Open App

「真面目な個人的意見言うと、『ないものねだりだけど、自然環境ぶち壊しのメガソーラーも景観完全破壊の風力発電機畑も無かった、ただ自然とともに在っただけの日本を返して』だけど、まぁ無理よな」
ところで、脱炭素に向けて何かしらの対策をしなければならないのは事実だけれど、
「風力や太陽光が増えてきたので閉鎖します」な火力発電所は一体いくつあるのだろうか。
某所在住物書きはネットニュースの記事をひとつ、スワイプして眺めて、スクショしてため息をついた。
某県、メガソーラー事業白紙撤回の記事である。

「……景観も環境も壊さず、かつ利潤もバチクソ生み出す発電方法って、無いもんかねぇ」
物書きは再度、ため息を吐く。
これもまだ、多分現在「ないものねだり」だろう。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所、某職場に、まさしく「ないものねだり」で就職してきた、恋に恋するタイプのひとのおはなしです。

この恋に恋するひと、名前を加元といいます。
元カレ・元カノの、かもと。安直ですね。
9年前に同じ職場の雪国出身者の顔に一目惚れしまして、でも付き合ってみたら性格と性質が解釈違い!
鍵無しの別垢、某呟きックスなSNSアプリで
地雷 解釈不一致 あたまおかしい
等々、グチり倒しておりました。

そのわりに、表ではニッコリ笑って、正反対に「それ好き それ解釈一致」とか言うのです。
相手の性格云々より、恋に恋してる自分を手放したくなかったのでしょう。

勝手に一目惚れされて勝手に解釈されて、勝手に地雷にグチグチ投稿された不運持ちは、
名前を当時、附子山といいまして、現在は後述の諸事情あって藤森なのですが、
ぶっちゃけ鍵無し垢など簡単にバレるワケでして、自分に対する加元の投稿を案の定見つけてしまいます。
心がズッタズタに壊された附子山、珍しい「附子山」から「藤森」に改姓しまして、
すべての連絡方法を閉ざし、職場も居住区も変えて、8年前、加元のもとから去りました。

で、ここからが「ないものねだり」。
性格も性質も解釈違いな恋人が自分のところから逃げたなら、そのまま放っておけば良いものを、
この加元、8年経った今頃になって、執念で「附子山」の今の職場を突き止めてしまったのです!
「好きじゃないのに」、相手の足取りを追い掛ける。
前回配信のお題みたいですね。

さて。 藤森に改姓しているところまでは突き止められなかった加元、お店に「附子山に会わせてください」と何度も押し掛けますが、
まぁ、まぁ。「附子山という者はおりません」なワケでして、会わせろ→居ません→の堂々巡り。
押し掛けの対応をした受付係には、加元の「居ない名字の相手に会わせろ」な無茶振りはまさしく、「無い者ねだり」、だったことでしょう。

自分の前から勝手に離れた附子山を、もう「附子山」という名字でないことなど知りもせず、
とうとう、最終手段に至った加元。
職場は突き止めたのです。「そこ」に勤めていることは事実なのです。
ならばその職場に就職してしまえばよろしい。

「どこにいるの、附子山さん」
今年の3月から、附子山の目撃情報があった本店にピンポイントで配属された加元でしたが、
隣部署を探しても、上階のブースを探しても、「旧姓附子山」の姿は無く、許可無く潜り込める場所は全部探し尽くしました。

「……支店に移ったのかな」
改姓のトリックに気付かないままの加元は、附子山の支店異動の可能性を考えます。
最初に行った支店からは「附子山なんてやつはいない」とピシャリ。
そりゃそうです。今の「附子山」は附子山ではなく「藤森」なのですから。
「待っててね。附子山さん」
支店はまだまだ、あと7つ。加元は今日も附子山を追って、無い者ねだりの人探しを続けます。

3/27/2024, 4:06:06 AM