涙雨

Open App

・安らかな、瞳(眠り?)・

ーコンコン
「入ってもいい?」
(いいよー!)
ガラッ…。
「今日もお見舞いに来たよ。」
(いつもありがとう!)
「はい、これ、桜のブローチ。
さっき瑠海さんに会って、〝渡してくれ〟って貰ったんだ。」
淡い桃色の花びらに、煌びやかな黄金色の装飾がキラキラと光を反射している。
(わー!!綺麗!瑠海さんにお礼しないと!)
「君がお礼言わないととか言うと思ってたから、この前行った岡山のお土産をおすそ分けしてきたよ。」
(さすが私の幼なじみ!私のことよくわかってるね!ありがとう!)
「あぁ、そうだ。今日は、これを渡しに来たんだ。」
何通かの手紙。花草の装飾がされたものやシンプルなもの、花柄の手紙や、プレゼントのような手紙があった。
(沢山あるね〜!こんなに沢山…。全部読み終えられるかな?)
「君が〝全部読むのは難しい〟って言うと思ったから何回か断ったんだけど、それでも渡して欲しいと頼まれたんだ。」
(ふふっ、あなたの困り顔が浮かぶね〜。)
「だから、僕が読むよ。だから聴いてくれる?」
(もちろん!聞いてるよ!)
「じゃあ…


…あなたの幼なじみ君だけど、彼なりに頑張ってるとこもあるんだから認めてあげなよ!!
それから、言い忘れてたのだけど…。
ありがとう。私にとって、あなたは唯一の親友だからね!これからもずっとだよ!
親友の磨希より。」

「これで全部かな。」
読み終える頃には既に日は落ちかけていた。
(……。みんな、ほんとにいい人だよね。)
「この手紙の量こそ、本当に愛されてるっていう証拠だよなぁ〜。」
(ほんとにね〜。あなたからの手紙はないのね。
まぁ、直接会いに来てるから必要ないか!)

「……。僕もひとつ言いたいことがあったけど、手紙にはしなかったんだ。直接伝えたかったって言う思いもあったし、言葉にした方がいいと思ったからね。」
窓を開けると日が暮れ始め、夕日が部屋の中を照らしている。
(……。)
「ねぇ。この5年間、僕がどんな思いをしてたと思う?」
冷たい空気が頬を撫でる。
「君が事故にあってから、目が覚めないまま5年がたったんだよ。」
彼女の顔に手をあてる。
「……。今日来たのは、先生に、君がもう目覚めないと伝えられたから最後の挨拶をしに来たんだ。」
彼女の顔にポタッ、ポタッと雫が落ちる。
「…好きだったんだ。ずっと…。君と出会ってから、楽しいことばかりで。もっと一緒にいたいって思えた。」
ふわりと風が吹く。
「もっと君と話がしたかった!もっと…、もっと…。」
涙がとまらず、ポタポタと落ちる。前が見えなくなるほどに、涙が溢れた。
「ありがとう。僕と出会ってくれて。本当にありがとう。大好きだった。大好き…。ありがとう…。」
ふわりと彼の周りを光が包む。
(___君。)
「!?」
前を見ると、彼女がたっていた。
(色んなことで困らせちゃったのに、こんなにも愛してくれてたなんて。嬉しい。ありがとう。)
微笑む彼女も、ポロポロと涙を流していた。
(私も、もっと君と一緒にいたかったし、もっと色んなとこに行ってみたかったよ。)
「ッ……。」
(ありがとう……。最後まで一緒にいてくれて。ほんとにありがとう。私も大好きだったよ!ありがと。
っ…、ごめんね……。さよなら___君。)

いつの間にか寝ていたのか、目が覚めた頃には日が沈んでいた。冷たい空気が部屋を通る。
「僕の方こそありがとう……。」
ーさよなら。

3/15/2024, 8:43:23 AM