ぼたん丸

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「鈍感なのかなんなのか……」

少し馬鹿にしたようなキミの声が、二人きりの部屋に響く。

「大役終えて一息ついた途端に体調崩すとか、立派なオーバーワークだぜ。」

まぁ、そう言ってくれるな。
こちとら体調不良にも気がつけない程忙しかったのだから。
そう言い返したいけれど、風邪でイカれた喉は掠れた音しか出してはくれない。
代わりとでも言うように、懐で体温計が電子音を発する。
すっとそれを取ったキミは、表示された数字を見て言った。

「三十七度九分。まぁギリギリ微熱じゃねぇの。
これくらいだったらすぐ治るだろ。」

微熱とは言っても、今まで喉風邪一つ引いたことがなかったのだから、十分しんどい。
風邪がこんなに辛いなら、今までも風邪引いた人にもっと優しくしておけばよかった。
同じ境遇になったからこそわかるものが、この世界にはあるのだ。

「買い物行くけど、なんか欲しいもんあるか?」
「……ゼリー。」
「ん、了解。」

ぽんぽんとキミの手が頭で跳ねて、少し低い温度が離れていく。
冷たくて気持ちよかったのに。
バタンと扉が閉まって、部屋には一人ぼっち。
今出ていったばかりなのに、早く帰ってこないかと思うのも、風邪のせいなんだろう。


[微熱]

11/27/2023, 9:19:37 AM