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今度、4年ぶりに親戚の家に遊びに行くことになった。
そのときに従兄弟とも会うだろう。前会った時、従兄弟は三年生くらいの腕白坊主だった。

あの夏は今年よりも酷暑で、蚊があまりいなかった。そんな中でも、蝉は求愛の歌を続けていて、その暑さも相まってから、その合唱はいつもより切実に聞こえた。そんな必死な声が、締め切った窓によって微かに聞こえるだけになり、クーラーによって涼しくなった部屋で私は従兄弟と話してた。
その部屋は子供部屋で、マメな叔母さんが掃除しているからだろう、よく整頓されていたが、よく見ると玩具箱の近くでキャラクターのフィギュアや変身ベルトが散乱している。カーテンからは夏の強すぎる、しかしクーラーで獰猛さを失った光がさし、その玩具箱を照らしていた。
「ねえねえさっちゃん(私の渾名)、ネコネズミって知ってる?」
「なにそれ、知らない」
「スマホ貸して」
スマホを貸すと、素早く検索窓にそのワードを入れた。その素早さに、高校になってようやく初めてスマホを持った私は現代っ子だ…と軽いジェネレーションギャップを感じつつ、その画像を見てみる。そこには青い猫とネズミが組み合わさったようなキャラクターが笑ってる。どうやらゲームのキャラクターらしい。そういえば、スーパーの花火コーナーにこのキャラクターがプリントされた花火が売ってたような気がする。
「かわいい!これが今クラスで流行ってるの?」
「さっちゃん、知らないの?みんなやってるよ!可愛いんじゃないよ!かっこいいの!ここから冷凍光線出すんだよ!いま見せるから待ってて」
と部屋の外に出て行き、ドタドタと大きな足音を立てて階段を降りていった。そして下から、
「ねぇねぇ母さん、ゲームしていい?」
と聞こえてきた。
下の階で私の母親と話してた叔母さんは呆れて、1時間までだからねっ!と言うのが聞こえた。
許可をもらってきた従兄弟は、息を切らしながらゲームを持ってきて、その指紋だらけのゲームの画面に指紋を増やしながら私に色々と丁寧に講義してくれた。

その日の夕方、私が帰る時に叔母さん一家が駅まで見送りについてきてくれた。寂しそうにしてるのを悟られまいと、従兄弟はその真っ赤な顔を私から背けていた。その様子を見て、私も懐かしさと寂しさを感じて、昼間紹介してもらったキャラクターがプリントされてるお菓子を駅で買ってあげた。すると、

「わぁ!」

目って本当にこんなに輝くんだ、とびっくりするほど輝かせて、喜んでくれた。そして、お菓子をもらったことを叔母さんに伝えに行った。叔母さんは
「あらあら、ありがとね、さっちゃん。
 あんた、ちゃんとお礼は言ったの?」
すると、むくれた顔でぶっきらぼうに、
「言ったよ!ありがとう!」
と言ったから、私は
「ちゃんと言ってくれたよね〜!
 じゃあ、またね!また次会った時も話そうね」
「うん!」
駅の改札で振り返ると、従兄弟は大きく手を振っていた。妹だった私は、家ではずっと面倒を見られる側だったから、年が離れた弟ができたような充足を感じながら、電車に向かって行った。その途中、振り返るといつまでも手を振ってくれた。その姿はだんだんと小さくなっていく。

そんな美しく普遍的で日常的な一コマを思い出しながら、私は電車に揺られていた。
元気かな、もうあのキャラクターは流行ってないだろうな、そういえば中学生だ、もうあの時みたいに話してくれないかな…と取り止めのないことを思っていると、駅に到着したことを告げるアナウンスがかかった。
ああ、もう降りないとな。

そして電車を降りて改札に向かうと、叔母さんと一緒に従兄弟が迎えにきてくれていた。私の胸くらいのところにあった頭が私の頭よりも上にあった。そして、私を一瞬見て恥ずかしそうに、にきびで真っ赤な顔を背けながらも、わずかに手を振った。
他人の子は成長が速いとは、理屈では分かってた。しかし実際にその成長を目にしたときにはやはり驚きを感じるものだ。その隠しきれない驚きと、4年前の別れ際にそっくりな俯いた姿勢に朧げな懐かしさを感じて、思わず大きな声で言った。

「わあ!」

すると従兄弟は照れくさそうに、低くなりかけてかすれた声で言った。
「久しぶりですね…」
なんで敬語なんだよ!って思いながら微笑んだ。

1/26/2025, 2:39:42 PM