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 靴飛ばし。
 いま世界で最も熱いスポーツ。

 ルールはシンプルだ。
 指定の位置から靴を遠くに飛ばすだけ。
 靴以外を飛ばしてはいけない。
 野次なんか飛ばせば永久退場である。

 実はレギュレーションがいくつかある。
 特に道具を使わず、そのまま飛ばす『バニラ』。
 てこの原理で飛ばす『アルキメデス』。
 ただ飛ばすのではなく、指定の標的に当てる『射的』。

 色々あるが、今最も人気のあるのは『ブランコ』だ。
 読んで字のごとし、ブランコに乗って靴を飛ばす。
 どこまで漕いで、いつ靴を飛ばすか。
 駆け引きが多く、その奥深さが誰もを虜にする

 そして俺は今『ブランコ』ルールの大会に出場している。
 もちろん目指すは優勝。
 小さな大会だが、ライバルの健太も出てくる。
 やつに負けるわけにはいかない。

 健太に会うまで俺は無敗で、向かうところ敵なしだった。
 だが、奴と同じ大会に出た時、俺は負けた。
 初めての敗北だった。
 それ以来、俺は一度も奴に勝ったことは無い。

 だが今回は違う。
 リベンジを誓い、みんなに協力してもらって特訓までした。
 もはやこの勝負は俺だけのものではない。

 俺は会場に駆けつけて来てくれた友人たちを見ながら、ブランコに立つ。
 こんな小さな大会にまで駆けつけてくれる友人たち。
 俺はいい友人を得と思う。
 たとえ負けても、彼らが一緒ならば受け入れられるだろう。

 俺は友人たちから視線を外し、正面を見据える。
 ブランコを前後に揺らしていき、徐々に揺れを大きくしていく。
 どんどん速さも早くなり、もはや手を離せば大けがは免れないほどの速さだ。
 普通の人間なら恐怖を感じるだろうが、俺にはない。
 むしろ、体にぶつかる風が心地よいくらいだ。

 こんなものでいいだろう。
 俺はある程度の高さまでブランコをこぐと、その高さを維持する。
 俺の経験上、これ以上大きく漕いでも遠くに飛ばない。
 それにこれはブランコの競技ではなく、靴飛ばしの競技なのだから。

 あとはタイミングを計るだけ。
 そしてブランコを同じ高さを何往復かさせたのち、俺は靴を飛ばす。
 飛ばしたときは、今までないほど良い感触を得た。
 これなら健太にも勝てるだろう。

 飛ばした靴は、とんでもない勢いで空を走る。
 靴は、他の参加者の記録を飛び越え、そして健太の記録の遥か上を飛び越える。
 勝った。
 俺はついに健太に勝つことが出来た。
 
 健太の記録を越えてもなお、靴は飛んでいく。
 どこまで行くのだろう。
 みんなが見守る中、靴は会場の公園を飛び越えて――あっ。

 ガシャァァァァァァァン。
「コラー、窓を割ったのは誰だー」

2/2/2024, 9:48:00 AM