『手のひらの贈り物』
あの子は、孤独な子だった。
親しいものもおらず、やさしくしてくれるものも居なかった。
だから毎日ひとりであちこちほっつき歩き、人々に悪戯をしてはその無聊を慰めていたのだ。
それを知る人間は、いなかったけれど。
ある時、あの子は自分のした悪戯を酷く後悔した。
罪滅ぼしとばかりに、小さな手でせっせと貢ぎ物を贈るようになった。
そんなことをしても、相手はあの子を見直すこともなければ、態度を変えることもなかった。
なぜなら、相手はあの子のしていることに気づいていなかったから。
もう、こんなことはやめたら?と、一度だけ私はあの子に言った。
あの子は黙って首を振るだけだった。
そして――あの日、あの子は撃たれた。
火縄銃を持った男が、あの子がせっせと運んだものを見て呆然と呟くのを、私は森の木立のずっと上から見ていた。
「ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは」
私は空の上から、あの子の体を覆うようにできるだけやさしく、月の光を降らせることしかできなかった。
12/20/2025, 9:13:47 AM