一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・時間漬け

 アレはいつの話だったか……?
 確か小学校低学年生くらいだったと思う。図工の授業中、誰かが水入れのバケツをこぼした。
「時間よ止まれって、ホントに止まったらどうなるのかな? 時間の影響下にある物質のすべてが停止するんだよね? 原子も、すべからく。空気中の酸素だって例外じゃない。すべてがフリーズ。
――時間を使ってホルマリン漬けみたいにできないかなぁ? 時間漬け!」 
 大騒ぎするクラスメイトをよそ目に、目を輝かせてそんな話を大人びた口調で語る同級生がいた。
「ムダ口は話はいいから、片付けるのを手伝って!」 
 余裕のない新任の担任教諭に怒られて、しょんぼり背中を丸めて雑巾を取りに行く彼の背中。
 
 彼の好奇心は、あれからどうなっただろうか? しょんぼり小さくなった背中のように萎びてしまったか、それとも逆境上等と背筋を伸ばして奮起しただろうか?
 毎年ノーベル賞発表時期になると、私は彼を思い出す。


―ニュース速報―
 ノーベル物理学賞は…………
 熱力学の第二法則を覆す、氏の研究結果は時間を液体化し……

テーマ; 時間よ止まれ

9/20/2024, 6:53:36 AM