臨時班長

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ぬいぐるみの心は

あなたが初めて私の家に来たとき。
嬉しかったわ。
もう一人じゃないって思えたよ。
どれだけ大変なことがあっても、悲しいことがあっても、あなたは家にちゃんといる。
帰ってあなたを抱きしめるの。
そうしたら、とっても安心して明日は大丈夫って思える気がしたのよ。
だからね、あなたとずっと一緒がいいわ。
――私が死んじゃうくらいまで。

ぐらぐらと揺れる視界の中に、あなたの姿が写った。
いつものように私のすぐ側にあなたがいる。
震える手であなたの頭を撫でた。
ふわふわしていて、柔らかい。
そんな感触が伝わってくる。
――安心する。

プツン。
意識が途切れたようだ。
もう、彼女が目を覚ますことはない。
安心して、逝けたのだ。
だったら、役目は果たせた。
僕の役目は。
『わたしはあなたが大好きよ。』
そんな昔の言葉が思い出される。
そう言ってくれた彼女はもういない。
涙はこぼれない。
涙をこぼれさせられない。
だから僕は、しんと静かな部屋から泣いているような雨を見た。

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2/17/2024, 3:08:14 PM