語り終わる頃には、自然と涙が零れていた。
「すまないね。長話に付き合わせちゃって」
袖で拭って、隣を向いた。
月光で表情がうっすらと見える。
真剣だが少し困ったような表情。
「いえ、とても興味深い話でした。私と重なる部分もあって」
女官は名を夕凪といった。
夕凪は、先月ここに来たばかりだと言っていた。
「重なる?」
「はい。私、ここに来る時、家族を置いて来たんです。家族といっても血は繋がってないんですけど。こっちに住む叔父から強引に宮仕えを決められて、引っ越してきました。持ち物すらほとんど勝手に運ばれて」
「そうだったのか。災難だったな」
聞いて、少しの罪悪感が沸き立つ。
夕凪は私のところに宮仕えをするために、家族と別れる必要が生まれた。
直接でないとはいえ、私が連れ去ったようなものだ。
「ホントです。だから私、宮仕えが決まってから毎日手紙書いて、出る時全部置いてきました。そうすればいつでも思い出してもらえるって思ったんです。よく読めばへそくりの場所なんかも書いてあります。なんならこれ使って会いに来てくれないか、だなんて思っちゃいます」
そこで何かをみつけようとしているかのように、夕凪の双眸が揺らめいた。
夕凪が探している違和感の正体に、自分も思い当たったような気がする。
夕凪は別離の時、思い出と会いに来る手段を残したといった。
だとしたら、かぐや姫も同様に、何か手がかりを残していた可能性があるのではないだろうか。
「手紙と不死の薬……」
呟きに反応して夕凪が目を見開く。
「そうです!そこにはもしかしたら何かメッセージがあったのかも!」
確証のない想像だが、可能性は充分あるように思えた。
しかし、その二つはすでに山で燃やしてしまっている。
不死の薬に関しては、もうどうしようもないだろう。
だが、交わした手紙なら、その内容を思い出せる。
何度も推敲して送った歌を、何度もしがんだもらった歌を。
私は覚えているはずだ。
「夕凪、悪いがそろそろ戻ろうか」
「え?どうしたんです?」
「やらなきゃいけないことができた」
「仕方ないですね。もう少し歩きたかったですけど」
「恩に着るよ」
言うが早いか、私は踵を返し、歩き出す。
このまま駆け出してしまいたい気分だった。
3/9/2023, 2:16:56 PM