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探偵はすれ違う

運命の人とは人生のどこかですれ違っているという話がある。そのすれ違いが、自身の運命にどう影響するのかはそのタイミングによるそうで。
その話を鵜呑みにするのなら、僕にとっての運命の人はクソみたいな運命を押し付けて行ったのだろう。

「さて、もう観念して自白したらどうだね?私が推理をするまでもなく、君の犯行であることは確実なのだよ。」
「ほんっっとうに違うんです!!絶対庭ですれ違いざまにぶつかった人がカバンに入れたんです!!!」
「血で濡れたナイフがカバンに入っていて犯人じゃないは無理があると思わんのかね?」
探偵を自称する青年と部屋に2人きり。何かが起こったかと言えば、屋敷で起こった殺人事件の取り調べである。

事の発端となったのはとある資産家が自分の屋敷で開いたパーティー。記者の僕も上司から資産家の情報を掴めと命じられ、新聞社の代表として招かれることになった。
平々凡々な僕が一生掴めないようなチャンスに、買い直した一張羅と屋敷のある辺境行き列車の切符を握りしめテンションは高く、隠せない笑顔で挑んだ……のだが。
行く道中に交通事故の目撃者になり、猛ダッシュの末滑り込んだ列車ではテロリストが同乗していて人質になり、更に同乗していた警察官によりテロが止められ、結局パーティーには遅刻した。
五時間も遅れて辿り着いた屋敷の庭園で不機嫌そうな中折れ帽の男にぶつかられてスっ転び、内心舌打ちしながら立ち上がれば屋敷から悲鳴が聞こえ、書斎から主人の刺殺体が見つかり、あれよあれよという間に取調べが始まってなんとびっくり僕のカバンから血濡れのナイフが見つかったのである。

「そんな虚言が通用すると思っているのかね?」
「ほんとに!!!!嘘じゃ!!!!ない!!!!」
「静かに言い訳したまえよ!!!」
目の前の自称探偵は僕を犯人だと決め打ちしているようであり、このままでは情報収集はおろかやってきた警察に捕まって豚箱エンド。僕は清廉潔白で平凡でか弱い一般人なのでそれだけは避けなければならない。
「僕の服を見てみてくださいよ!!!血ィ着いてないでしょ?!」
「あっ確かに……だが着替えされすればいい事だろう?!」
「その着替えをどうしたかって話でしょうが!」
不毛な言い争いをしている最中、廊下を走るような足音が聞こえ屋敷の執事であろう老人が部屋に飛び込んできた。
「た、探偵様!大変です!屋敷と外の街を繋ぐトンネルが爆破され、警察が来れなくなってしまいました!」
「なんだとぉ?!?!」
「そして、奥様も、奥様の遺体が温室で見つかりました!」
「な、なんだとぉ?!?!奥様は取調べ開始時点で生きていただろ?!」
「えっじゃあ僕犯人じゃないじゃん!!この野郎なにが探偵だ!!!!心が傷つけられたから慰謝料払え!!」
こうしてあれよあれよという間に僕の容疑ははれ、パーティーの参加者改め容疑者達は屋敷に閉じ込められた。
「君の容疑が晴れた訳では無いぞ。奥様を殺してなくとも、主人を殺したかもしれない。」
「ぐっ……それなら慰謝料は勘弁してやる……。」

「だが、君への疑いは限りなく軽くなった。そこでだ。私に協力して真犯人を見つけださないか?」
「はぁ?!なんで僕が」
「いい新聞のネタになるだろう?それに見つからなければ消去法で君を警察に突き出す。」

そんな脅しともに僕はこの自称探偵と共同戦線を張ることになった。
屋敷で続く殺人事件とその真犯人の正体は、僕が警察に突き出されなければ新聞に載るだろう。



10/19/2024, 12:08:17 PM