「先生」
声をかけられて振り返ると、何故か頬を膨らませて仁王立ちしている生徒が立っていた。
「どうした?」
「どうした、じゃない。あれ」
「あれ?」
トントン、と生徒は自分の手首を指す。
ああ、とようやくそこで怒りの理由に合点がいった。彼にもらった誕生日プレゼントを、俺が付けていなかったからだ。
「善処するって言っただろ」
「毎日付けてって言ったでしょ」
「そんなこと言われてもなぁ……」
これでも、もらった当初は、特別扱いをしない範囲でどうにかしようと考えたのだ。でもダメだった。生徒からのプレゼントを身に付ける。それがどんなに大変か、彼はきっと知らない。
「先生の嘘つき。毎日付けてないの見て、嫌われたかもって不安に思う俺の気持ち、知らないんだ」
「お前は俺の彼女かよ」
そもそも付き合ってすらいないのだが。というか、何か盛大な誤解が生まれている気がする。
「それと、身に付けてはないけど、持ち歩いてはいるから」
「え」
「これ」
ポケットからブレスレットを引っ張り出す。
彼の目の前に持ち上げて見せると、途端に彼の頬が緩んだ。
「…………嘘つきって言ってごめん」
「素直に謝れる生徒は嫌いじゃないよ」
「え、今好きって言った?」
「言ってない」
そっか、と彼は笑う。俺がブレスレットを持っていることに安心したらしい。面倒な生徒に好かれたもんだな、と彼の笑顔を見て思う。
「じゃあ、授業始まるから俺は行くぞ」
「はぁい」
ニコニコしながら手を振る彼に、背を向ける。嫌われなくて良かったと、心の隅で安心している自分がいることに気付かないフリをして。
1/25/2024, 12:42:41 PM