せつか

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壁一面に本が並ぶ小さなカフェで、私は彼と出会いました。街路樹がすっかり葉を落とし、道を歩くたびにサク、サク、と音がする季節でした。
初めて入ったそのカフェで、コーヒーを片手に本を読むその姿に、私は目を奪われたのです。
彼の姿が見える席についた私は、コーヒーを注文すると棚から大きな画集を取り出してページを捲りました。ええ、それはただのポーズです。私は本を読むふりをして、彼の姿を盗み見ていたのでした。

スラリとした長身、ページをめくる長い指、黒縁眼鏡にかかる、珍しい色をした髪·····そのどれもが私を酷く惹き付けて、心をざわつかせたのです。
一時間ほどでしょうか、そうして彼を見つめていた私はあることに気付いて目を見開きました。
「――」
ふわふわした茶色の尻尾。それが彼の背後で揺れていたのです。
見間違いかと思いました。けれどそれは確かにあって、本を読む彼の表情に合わせてピンと立ったり、左右に揺れたり、くにゃりと垂れたりしていたのです。
私以外の他の客は誰も彼の尻尾に気付いていないようでした。好奇心に駆られて、でしょうか。いえ、きっとその前から、私は彼に惹かれていたのだと思います。
私は自分の席から立ち上がるとゆっくり彼に近付きました。
「·····」
彼は夢中で本を読んでいます。近付いてみても、やはり彼の背後にはしっかり尻尾がついていました。

私にようやく気付いたのか、彼がゆっくり顔を上げます。私は少し屈んでソファに座る彼の耳に唇を寄せて、そっと囁きました。
「尻尾が見えてますよ」

黒縁眼鏡の奥にある、珍しい色をした瞳が大きな見開かれました。
「――っ、」
整った美貌がみるみる真っ赤になります。

こうして、狐の彼と私の奇妙な関係が始まったのでした。

END


「秋🍁」

9/26/2024, 1:03:01 PM