さち

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「僕と君の秘密を話そう。」

そんな約束をしたのは、ある日の帰り道。
「世界はきっと突然に終わる。」
きみは脈絡もなくそんなことを言う。
「世界が終わるのは明日かもしれないし、10年後かもしれないし、僕らが死んだずっと後かもしれない。この世界は、1度滅びたあとかもしれない」
「いきなりどうしたの」
「今日のラジオの話題が、『明日世界が終わるなら』だったんだよね。誰も世界が何時終わるかなんて予想できないだろうから。考えてみてもいいかなーって」
「なるほど。で、どうするつもりなの?」
「それを今から考えようと思って。君もバスがくるまでまだ時間あるでしょ?」
「まあ、まだあるけど」
「じゃあ一緒に考えよう!」
本当に明日世界が終わるかもしれないのに、呑気なやつだ。
「君ならどうする?」
「俺はいつも通り過ごすかな。明日世界が終わるからって、なにか特別なことをする理由にはならないでしょ」
「えー!明日世界が終わるっていうのはすごく大きな理由じゃない?」
「そうかな」
「そうだよ!そんな理由が付けられる日なんて、一生に一回あるかないかわかんないじゃん!」
「うーん。まあ世界が終わる時は、でかいことやってるかもね」
「え!どういうこと!?」
「内緒」
きみには分からなくていいことだ。
「そういうきみは何かしたいことでもあるの?」
「僕はねー、美味しいものたくさん食べて、遠くにいる友達みんなに会いに行って、やりたかったこと全部やる!」
「それ一日で終わるか、?」
「えへへ、でも最後の日は今までで一番最高な一日にしたいじゃん!」
「そうか。頑張れ」
「何それ。そんな明日で世界が終わるみたいな」
今日のきみは鋭いな。
「あ、あともうひとつやりたいことがあった!」
「まだあんのか」
「世界が終わる時には、君の秘密を教えてよ。僕の秘密も教えるからさ」
「え、なんで」
「いいじゃん。世界が終わるのなら!」
きみは不敵に微笑む。
「まあいいよ」
「おっけー。約束だよ!指切りげんまん!」
楽しそうなきみの声を聞いていると、なんだか世界を終わらせるのは勿体ない気がしてきた。


#1 『僕と君の約束』
2024.6.8 世界の終わりに君と

6/8/2024, 6:23:11 AM