「好きでした。」
そう言う彼女は、雨に濡れた後のようだった。
「好きです。付き合ってください。」
二年前に一目惚れした彼女に、僕は告白した。初めはただの学校の後輩。しかし、気付いた時には目で追っていた。最も仲良くなりたい、彼女を知りたい。そう思ったら居ても経ってもいられず、猛アタックした。そして今、玉砕覚悟の告白をするまでに至る。
「ありがとうございます。」
彼女は泣いていた。困らせてしまった。その罪悪感で逃げ出したくなった。しかし、そんな考えはすぐに消えた。
「私も好きです。これからもよろしくお願いします。」
晴れて僕は、彼女と付き合える事になった。天に舞う気持ちだった。これからもこの幸せが続くように、祈った。
「いかないで。傍に居てください。」
嵐の音・車の音の雑音の中、彼女の声だけが鮮明に聞こえた。僕は彼女を泣かせてばかりだな。どうか泣かないで。笑って。遠のく意識の中、それだけを望んだ。
嵐の中。僕は車との衝突により、彼女を残して死亡した。
僕が死んだ日も嵐の日だった。そんな事をぼんやり考えていたら、彼女が虚ろな目で動き出した。屋上のフェンスを乗り越え、街を見下ろす彼女。きっと死ぬのだろう。
「私は先輩が好きでした。笑う顔が声が、好きでした。だから、ずっと笑って欲しかった。ずっと傍に居て欲しかった。それが叶わないなら私は死んでもいい。」
彼女は弱々しく言った。僕のせいで彼女が死んでしまう。それなのに、こんな僕を愛してくれてありがとうという気持ちが溢れてくる。あぁ、僕は最低な奴だ。それでも、願ってしまう。彼女に生きて欲しいと。
『生きて。』
自分勝手なのは分かってる。それでも、これからの幸福を彼女に捨てないで欲しい。この想いが彼女に届け。そう思った時、彼女は一度僕の方を向いた。そして少し笑った。
「私が死んだら、先輩は怒ってしまいますよね。」
彼女の顔は、泣きそうな嬉しそうな顔に見えた。
今日も僕は謳う。嵐が来ようとも掻き消されぬ声で、彼女への愛を謳う。
7/29/2024, 3:06:08 PM