【初日の出】
防波堤の先端で、青年は缶コーヒーを両手で包んでいた。
夜明け前の海は黒く、冷たく、静かすぎて自分の呼吸音だけがやけに大きい。今年も結局ここに来てしまったな、と誰にでもなく思う。
東の空がわずかに薄桃色に滲み、波が色をもらい始める。
去年の今頃に立てた目標は、ひとつも達成できなかった。
それでも太陽は律儀だ。裏切らず、遅れず、今日も昇ろうとしている。その事実が、なぜか胸に刺さる。
ふと、背後で小さな笑い声がした。
振り返ると、見知らぬ子どもが手を振っている。「もうすぐだよ」と根拠のない断言。
その瞬間、雲の隙間から光が溢れ、海が一気に金色へと塗り替えられた。
青年は息を呑み、過去でも未来でもない“今”に捕まる。
初日の出は、何も約束しない。
ただ昇るだけだ。
青年は缶コーヒーを一口飲み、少しだけ背筋を伸ばした。
今年も失敗するかもしれない。でも、ここに立っている限り、朝は来る。そう思えたことが、彼にとっての始まりだった。
明けましておめでとう。
1/4/2026, 8:17:00 AM