「春風 桜 (はるかぜ さくら) です。
よろしくお願いします。」
4月。
新学期と共に転校生がやってきた。
その女の子は春風 桜と言って、
髪に桜のブローチをつけていた。
その姿があまりにかわいくて、
僕は一目惚れしてしまった。
隣の席に座ったその子は、
ふわっと桜の匂いがした。
僕は毎日、
一瞬だけ鬼のように素速く目を走らせ、
隣に座る彼女を何度も盗み見した。
その度に鼓動がドクンと脈打つのを感じた。
ずっと隣で盗み見るだけだった。
5月。
GW終わりの学校から、
彼女は消えていた。
「桜の精」
そんな本を図書室で読んだ。
桜咲く季節に現れ、
桜と共に散る。
彼女もきっと桜の精だったんだろうと、
そう思った。
どこからともなく桜の花びらがひらひらと舞い、
僕の手の平に落ちた。
手の平でしおれていく花びら。
その花びらを見つめ、
見つめながら僕は声を出さずに少し泣いた。
『桜』 完
4/5/2025, 9:02:30 AM