わをん

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『香水』

人混みの中で嗅いだことのある香りとすれ違い、記憶が遡る。都会に出てきたばかりの若かりし俺は夜の街で働く年嵩の女にいっとき飼われていた。飼われることに嫌気がさして都会を飛び出し、十年近くを経て戻って来たときにはあの人は消息不明となっていた。
何も持っていない俺のどこに価値を見いだしていたのかはあの人の年に追いつこうとしている今でも自分にはわからない。俺が女であったならわかってやれただろうかなどと詮無きことを思う。
白粉と香水の混じり合った香りが幻のように立ちのぼる。人混みの中で振り返っても、そこには俺の後悔が影のように立ち尽くして消えていくだけだった。

8/31/2024, 5:28:10 AM